「最近、韓国産の鱧(はも)がいいんですよ。脂がのっているから、焼いたり、炊き込んだりする時は国産よりおいしいくらいです。ただし、お椀にしたり、刺し身にしたりするには、脂が強いので、淡路島産など国産のほうがいいですね」
実は鱧の本場、京都の料理店でも、上質な韓国産の鱧のニーズが高まっているという。蓮では、銀座に移転した去年から仕入れるようになった。
「昭和や平成は、東京なら鱧は築地で仕入れるのが当然でした。でも、流通が発達した今は、世界中から産直でいい食材を手に入れられる。日本料理の伝統的な食材だからといって、国産がベストとは限らないと思うようになりました」
奇をてらうのではない、純粋な日本料理をシンプルに提供する蓮の三科惇氏は、フォアグラなど海外の高級食材を用いることはまずない。基本的に食材は国産だ。
だが、近年は韓国産の鱧の質が向上し、調理法によってはあえて韓国産を選ぶ。「今のところ、日本料理で主役を張れる伝統的な食材で“外国産”を使ったほうが旨いと思えるのは韓国の鱧だけですが、今後、他にもこういった食材が出てくるのではないか」と予想する。
「食材の持ち味をシンプルに引き出し、限界までそぎ落としつつも、新しいもの」を追求する三科氏ならではの、選択である。一方、「日本料理で鱧が扱えるようになるのは、修業の最終段階です」と三科氏。
「鱧には1匹で3000本以上の骨があるといわれますが、食べた時に骨を感じないように皮を一枚だけ残して包丁を入れる、というのが“鱧の骨切り”です。師匠の店『石かわ』でもずっとおやっさんが骨切りしていましたし、蓮では僕しかやりません。生の鱧の身を刺し身で食べられるのは、この“鱧の骨切り”という技術があってこそです」